軍師リュ・ソンリョン~懲毖録<ジンビロク>~(징비록) ☆☆☆
2015年KBSの大河ドラマ、全50話
演出 キム・サンフィ(「大王の夢」「戦友(2010年版)」いずれも共同演出、
キム・ヨンジョ(「チャン・ヨンシル」、「百済の王 クンチョゴワン(近肖古王) 」共同演出)
脚本 チョン・ヒョンス(「チェオクの剣」、「朱蒙」共同演出)、チョン・ジヨン
出演者
キム・サンジュン、キム・テウ、チョン・テウ、ト・シガン、ナム・ソンジン、チェ・チェロ、イ・ジェヨン、キム・ヘウン、ノ・ヨンハク、キム・ギチョル
最高視聴率は13.8%(AGBニールセンによる)
*このドラマのアンケートを作りました。
ご覧になった方々に参加していただけると嬉しいです♪
このドラマは光復 70周年特別企画大河ドラマとして作られており、内容も秀吉の朝鮮出兵時の話ですから、反日色の強いドラマでは?と敬遠していたのですが、とりわけそういう事もなく面白かった、という話を聞いたのでGyaOの無料配信時に見ました。
結論から言えば、日本人の目から見れば、多少反日と思えるところもないことはないですが、他のドラマに比べるとむしろ、かなり抑制のきいたものになっていたと思います。
星は3つと4つと迷ったうえでの3つ。
前半部では4つぐらいの感じだったんですが、終盤の魅力がそれほどでも、といった感じで4つは見送りました。3+って感じです。
いままで文禄・慶長の役を扱うドラマの場合、主人公はイ・スンシンか光海君がほとんどだったと思うのですが、今回はリュ・ソンリョンという朝廷の中心人物。
派手な戦闘シーンはほとんどなく、個々の人間の心理に深く入り込み、彼らの理想と現実を踏まえての行動の織り成すストーリー展開が見どころのドラマとなっていました。
今までのドラマでは、ざっくりと描かれていた人たちを、かなり精細に描写しており、各人の思惑が絡まり合うさまがとても興味深かったです。
わたしはここがすごく面白かったのですけれど、それがつまらないとおっしゃる方もいらっしゃるだろうな、と思います。
なにせ、かなり地味なドラマですから…
また、戦争が始まるまでが長いんですね。50話のドラマで、13話目にして戦争開始です。
わたしはこの、戦争の始まるまでが一番面白かったんですが、戦争ドラマを期待している人にはそれまでが長いうえに、始まったところで期待はずれ、という感じもあるかもしれません。
というのも、このドラマ、予算があまり大きく取られていないみたいなんですね。
いろいろ工夫をしているようなんですが、巨大な資金をつぎ込んだ作品に比べると、やはり見劣りがしてしまうように思います。
でも、ドラマの主題はそこじゃないですからね~
とはいえ、邦題に”軍師”なんてついているものだから、NHKの「軍師官兵衛」を思い出してしまいます。
官兵衛では関ヶ原の合戦があっという間に終わってしまったことが話題になっていましたが、本格的な合戦の様子は描かれていませんでしたよね。
そういう思い切りの良さが足りなかったかも、と思います。
予算不足といえば、日本の女性陣の衣装が日本人から見て、かなりおかしいのも、そのせいかしらね。
とはいえ、韓国ドラマでは、中国人はいつの時代でも、男性はほとんどの場合、髪を全部は結い上げず、下半分は下した上方に決まっているようですから、あんまりそこのところはこだわりがないのかも…
で、私が面白く感じたところをもう少し詳しく書きます♪
まず、話の中心となる朝廷の状況なのですが、ドラマ開始時点では士林派が東人と西人に別れていた時代。
時の王、宣祖は事あるごとに一方を失脚させてはた方を立て、というやり方でコントロールしているといった状態です。
その後、東人のとリュ・ソンリョンがイ・サネと袂を分かち、イ・サネらが北人、リュ・ソンリョンらが南人と分裂し、この状態が話の終りまで続きます。
今までのドラマでは、朝廷での勢力を争って、互いに貶めたり、先の先を読んで相手のふりになることを考えたり、と手段を選ばず、といった描写に終わっていたように思うのですが、このドラマは違います。
もちろん、政敵とのし烈な争いが中心に描かれていて目を引きはするのですが、その中にも個々の理想や目指すビジョンはあるんですね。
リュ・ソンリョンは主人公ですからちょっといい人過ぎって描写になっているのですが、その彼に対しても、政敵であるイ・サネが”自分の側には正義があって、相手がすべて間違っているように考えているだろうけれど、立場が違えば正義も違う”といったようなことを言っていた所があるんです。
それも口先だけではなく、真実そう思っているし、そのうえで行動していると思えるシーンです。
そして、ドラマの中では描かれないのですが、ドラマの終盤では再び分裂をもたらすことになる人物も登場するのですが、彼の場合はより、理想よりも実利を求める人物として描かれていて、そのあたりも興味深かったです。
朝鮮国内ではその朝廷と国王、世子が平時でも綱を引きあっている状態なのに、戦争が起こることでますますこじれて行きます。
宣祖に関しては、今までのドラマから、愚かで気まぐれな王、といった印象しかなかったのですが、戦いの序盤で、(リュ・ソンリョン^だったか?)戦争がなければ聖君となれたのに、といったセリフがあって、とても印象的でした。
その後はずっと、聖君にもなれた王、との視点を保って見ていたわけですが、彼が傍系から選ばれた王であるという立場と相まり、彼の愚行の数々にもかかわらず、その見方も一理あるなあ、と思わされました。
また、戦争中にますます広がる王と世子の距離と世子が徐々に王への憎悪を育てて行く姿にも説得力がありました。
そして、国外に目を向ければ明と日本もまた、一枚岩ではありません。
明国内の勢力争いは朝鮮にも持ち込まれ、翻弄される朝鮮。
日本では朝鮮との交易で利益を得ている対馬の勢力の独自な動きにも注目です。
明と日本の交渉にあたる人たちがそれぞれの最高権力者たちに対し大嘘を付いて戦争を回避したり終わらせようとするのですが、この信じられない詐欺劇、なんと実話なんだとか。
こんな細部が詳しく描かれ、新たに知ることも多かったドラマです。
と、まあまあ面白く見たのですが、わたしが気に入っていた、人間の描写は初めの方に多く、後になるほど減っていく構造になっているんですね。
特に終盤は水軍の戦闘シーンが何度も登場するんですね。
そこは主眼ではない、とは言うものの、同じような場面の繰り返し(同じ映像を使いまわしている?)や、いかにものCGはちょっとうんざりしてしまって…。
それと、この水軍の動きもまた、説明が少なくて、実際にどういう動きをしたのかがイマイチ解りにくかったんですよ。
日本側も、秀吉が亡くなり,あれよあれよという間に撤退するわけなんですが、そのあたり、駆け足で話が進み、よく分からないままに終わってしまった感じで、もやもやしたものが残ってしまいました。
その上、ラストのリュ・スンリョンの心理についても、あまりにも客観的な描写で終り、ちょっと消化不良。
終盤、政争はますますひどいものになりそうな描写がありながら、彼がそれを無視して、ただただ懲毖録の執筆をしていた、というからには、相当の絶望があったように思われるのですが、それまでの彼のキャラから言うと、ちょっと説明不足な感じがありました。
それから、最後に一言・・・
このドラマの秀吉像って、敵キャラなので残虐な設定になるのは仕方がないかもしれませんが、日本人から見たら信長に近くないですかね…