結社誌の書評欄に書くために読んだ本です。
わたしのところには、どうも、若い人の本がよく回ってくるみたい。
『ざらめ』梶原さい子歌集 青磁社
(楽天ブックスにリンクしています)
「塔」所属の著者の第一歌集。二十代後半から三十代前半の作品を纏めたと、
あとがきにあります。
日常的な風景を描きながらも、その隅にひそむ不可思議のものを作者は
掬い取っていく。
昔話や童歌と同質の、存在の本質そのものに係わる謎や、恐ろしさのようなものが
この歌集からも、じわじわ滲み出して来るようです。
・複写機に光とほりてゆくときの外にあをあを雨燃えてゐき
・サンプルのオムライスまで溶けてゐる商店街をぬらぬら歩く
・山姥も来る冬憂しや大吉の出るまで御籤引かさるる里
・雲がみな彼の世へ吸はれゆくやうな一点透視図法のゆふべ
・吊革に手を縛りつけ春をただ ただただ窓をよぎらせてゐる
・鉄管をとほりてのちに夕暮れへ放たれてゐよ 朱きみづ美(は)し
・みんなざらめになつてしまふよ刻々と秋の日暮れが失はれゆき
著者の勤め先であった、女子高での生活から生まれた歌にしても、詠まれている
少女たちや学校はこの世とあの世の境にあるかのよう。
・千人が朝やつてきて千人が夜に帰りきたぶん帰りき
・答案を束ぬるゴムの弾性にかすかに打たる冬の教室
・鳥の啼く昏きを森と呼ぶならば森をいくつも孕む教室
他にも、こんな歌に注目しました。
・楽天がいつかわれらを捨つる日を怖れつつ東北に冬は来(く)